除染作業中の安全衛生の留意点
従業員の安全と健康の確保は事業者の責務です
目次
1 労働災害防止の基本
2 危険防止の措置
(1)作業の計画段階で留意すべき事項
(2)除染作業で想定される災害と防止対策
(3)車両系建設機械使用時の災害防止対策
(4)高圧洗浄作業における安全対策
(5)保護具の適切な使用
3 被ばく低減・健康管理の措置
(1)被ばく低減のための措置
(2)個人線量の管理
(3)作業環境管理
(4)作業前の被ばく低減計画策定
(5)準備作業における留意事項
(6)本作業・片付け作業中における留意点
(7)健康診断の実施
4 安全衛生管理体制
5 安全衛生教育
6 自主的な安全衛生活動
7 リスクアセスメントに基づく取組
1 労働災害防止の基本
▶ 危険防止の措置
◦ (例)堕落防止措置、建設重機等との接触防止など
▶ 被ばく低減措置・健康管理の実施
◦ (例)放射線の被ばく管理、健康診断の実施など
▶ 安全衛生管理体制の整備
◦ (例)安全衛生推進者の選任、作業主任者の選任など
▶ 安全衛生教育の実施
◦ 従業員を雇い入れ、作業内容を変更した時の教育
2 危険防止の措置
(1)作業の計画段階で留意すべき事項
▶ 作業計画の作成
◦ 除染作業は、高所での作業や重機を使う作業など、危険な作業がふくまれるため、事前の調査や計画的な作業が必要
◦ 作業計画に含めるべき事項
・作業の方法及び順序
・労働者の墜落を防止するための設備の設置方法
・地形や地質に応じた建設重機の作業方法など
▶ 作業指揮者
◦ 作成された作業計画に基づき、労働者が適切に作業を実施するよう、指揮監督する者が必要
(2)除染作業で想定される災害と防止対策
▶ 墜落転落による労働災害の防止
◦ 家屋の屋根等、高さ2m以上の箇所で作業を行う場合には、足場などの「作業床」を設置
◦ 「作業床」の設置が困難な場合には、「安全帯の使用」「墜落防止ネットの設置」など、墜落防止の措置を実施
・ポイント:作業床や開口部から墜落しないよう、囲いや覆い、手すり等の墜落防止設備を設ける。
▶ 脚立、脚立足場作業による墜落災害防止
・三脚は、開き止めをかける
・天板にのらない
・ステップを水平にして使用
・安全加重を守る
▶ 草刈り・トリマーを使用する作業での災害
・保護メガネ、安全靴の使用
・使用前点検の実施
・移動時はスイッチを切る
・作業範囲の立入禁止措置
▶ 物体の飛来・落下による労働災害の防止
◦ 除染で雨樋や屋根の汚泥等の落下による災害を防止するため、「立入禁止区域の設置」等の実施
・ポイント:そもそも物体の落下を防ぐことが重要であるが、労働者に保護帽の着用を徹底させる。
・国家検定品を使用する。
▶ 機械・器具の使用による労働災害の防止
◦ 除染作業で使用する機械・器具(高圧洗浄機、芝刈り機等)の安全装置等を適切な状態に維持する。
◦ 保護メガネ、手袋などの適切な保護具を着用させる。
(3)車両系建設機械使用時の災害防止対策
▶ 車両系建設機械に関する作業計画の作成
◦ ブルドーザー、バックホー、パワーショベル等を使用する場合は、あらかじめ、作業場所の地形や地質を調査した上で、これを踏まえた作業計画を策定し、それに基づいて作業を実施
・使用する車両系建設機械の種類と能力
・車両系建設機械の運行経路
・車両系建設機械による作業の方法
▶ 車両系建設機械の転倒等の防止
◦ 地盤が軟らかい箇所等で作業を行う場合は、「敷鉄板」の敷設などの転倒防止措置を実施
▶ 車両系建設機械との接触防止
◦ 車両系建設機械と労働者が接触するおそれのある箇所に、「立入禁止措置」、「見張り印の配置」など、接触防止措置の実施
▶ 車両系建設機械の主たる用途以外の使用禁止
◦ バックホーやパワーショベルのパケットの爪を用いて荷をつり上げる等の危険な作業は禁止
・ポイント:荷のつり上げ作業には、移動式クレーン等を使用する。
▶ 車両系建設機械の運転に必要な資格
◦ 車両系建設機械に応じ、「機能講習修了者」など、必要な資格を
有する者に運転させる。
(4)高圧洗浄作業における安全対策
▶ 高圧洗浄作業では、高圧水の直撃による裂傷、出血性ショック等の死傷災害のおそれがあるため、次の安全対策が必要
◦ 作業は3名以上で実施
◦ 作業開始前に、使用機材の安全装置の作動確認
◦ 「洗浄作業中」の表示等による立入禁止措置
◦ 「産業洗浄(高圧洗浄作業)安全衛生管理指針」も参照のこと
◦ http://www.senjo.or.jp/shishin.pdf
(5)保護具の適切な使用
▶ 防塵マスクの適切な使用
◦ 国家検定品(RS3又はRL3(湿度が高い場合はRL3))を使用
◦ フィットチェックの実施
吸気口を手でふさぐときは、押しつけて面体が押されないように、反対の手で面体を押さえながら息を吸い、苦しくなければ空気の漏込みがないことを示す
▶ 保護帽(ヘルメット)の使用
◦ 墜落のおそれのある箇所、飛来・落下物のおそれのある箇所では、保護帽を着用させる
・ポイント:国家検定品を使用する
▶ 適切な保護衣の使用
◦ 汚染の程度に応じて、汚染防止に有効な保護衣類、手袋、履き物を使用させる
・少なくとも、長袖の作業着、安全靴、手袋(軍手とゴム手袋の二重が望ましい)、安全メガネ(ゴーグル)の着用を
◦ 雨天時の作業や水を扱う場合は、防水衣(アノラック等)を使用させる
3 被ばく低減のための措置
(1)被ばく低減のための措置
▶ 外部線量低減の4原則
◦ 線源の除去
・線量率が高い除染対象物を優先的に作業場所の外に移す
・表面除染 など
◦ 線源を遮蔽
・鉛マットや鉛板を上からかぶせる
・壁などの陰で作業を行う など
◦ 作業時間の短縮
・TBMで作業内容を把握する
・工具などの準備を確実に行う
・モックアップ訓練の実施 など
◦ 線源から離れて作業(隔離距離の確保)
・線源に不要に近づかない
・待機時に作業場所から出る など
▶ 汚染拡大・内部被ばく防止の4原則
◦ 汚染を除去する
・ウエス等で器具等を拭く
・作業場所の清掃 など
◦ 飛散を防止する
・密閉ハウスや局所排気装置を設置
・作業場所の出入り口に粘着積層シートを設置 など
◦ 汚染物を隔離する
・汚染物、汚染物品を梱包、容器に入れる
・汚染物品に汚染表示をする など
◦ 保護具を確実に着用する
・防塵マスクのフィットテストの実施
・汚染された手袋等の着脱方法の指導
(2)個人線量の管理
▶ 個人線量計の使用
◦ 作業開始前に、作業員全員に電子式積算線量計(ポケット線量計)を配布
・JIS(ISO)規格に準拠しているもの
・警報付きが望ましい
・ガラスバッジ(ルクセルバッジ)を併用することが望ましい
◦ 線量計は、男性は胸部、女性は腹部に着用させる
▶ 被ばく線量の記録・保管・通知
◦ 作業終了後、個人線量計を回収し、日々の被ばく線量を記録し、30年間保管する
◦ 日々の被ばく線量を1日ごと、累計の被ばく線量を一月ごとに作業員に文書で通知
▶ 被ばく上限
◦ 除染作業従事者は年間20ミリシーベルト以上被ばくさせない
◦ 妊娠の可能性のある女性は、三月で5ミリシーベルト以上被ばくさせない
(3)作業環境管理
▶ 作業環境モニタリング
◦ 作業を開始する前に、あらかじめ、作業場所の空間線量率、除染対象物の表面密度を測定
▶ 測定器
◦ 空間線量率:電離箱サーベイメータ、シンチレーション測定器等
◦ 表面密度:GMサーベイメータなど
(4)作業前の被ばく低減計画策定
▶ 作業を実施する前に、作業指揮者による打ち合わせを行う。作業者は、作業の内容や被ばく低減計画の内容を確認し、十分理解する
◦ 作業内容
・作業項目、作業方法、場所、作業体制、共同作業者、使用機械・器具、作業条件、作業環境、安全対策 など
◦ 被ばく低減計画
・推定被ばく線量、保護具、放射線環境、線量目標値、換気・遮蔽等の設置計画、汚染防止措置等
▶ TBM(ツールボックスミーティング)
◦ 毎日の作業開始前に、当日の注意事項を確認
・放射線防護措置を確認
・作業内容の確認
・作業の危険とその対策の確認
(5)準備作業における留意事項
▶ 遮蔽を検討する要素
◦ 空間線量が高い
◦ 遮蔽がしやすい
◦ 線源付近での作業時間が長い
◦ 線源付近での作業者数が多い
▶ 作業場所設定時の注意点
◦ 足場等の設置場所の検討
◦ 所定の標識の掲示
◦ スクリーニング・着替え場所の設定
▶ 密閉ハウス・局所排気装置設置時の留意点
◦ 負圧のため、開口部を小さくする
◦ 吸引口はできるだけ汚染源に近く、また、風下側に設置
◦ 試運転を行い、所定の性能が出るか確認
(6)本作業・片付け作業中における留意点
▶ 作業手順の遵守
◦ 時間のかかる作業は事前に訓練を行い、作業時間を短縮
◦ 思わぬ被ばくをする可能性があるので、不必要な場所に近づかない
◦ その他
・決められた接近ルート、作業場所、待機場所を守る
・遮蔽材の移動、取り外しを勝手に行わない
・時間管理を守る
・アラーム付き線量計のアラームが鳴ったら、直ちに退出する
▶ 身体・内部汚染の防止
◦ 作業場所で飲食・喫煙をしない
◦ 作業場所の清掃を適宜実施し、汚染レベルを低く保つ
◦ 決められた保護具の装着
◦ 汚染物の運搬時には、養生を適切に実施
◦ その他
・無意識の汗ふき注意
・壁や機器等によりかからない
・マスクやゴム手袋の脱着時に、露出した皮膚等に触れない
・汚染した手袋で線量計を触らない
▶ 汚染拡大の防止
◦ 人の移動による汚染拡大防止のため、靴交換、ゴム手袋交換の指示に従う
◦ ほこりが立つ作業、水を扱う作業は、汚染防止のための養生を確実に実施
◦ 作業場所から物品を移動する際には、必ずスクリーニングを行う
▶ 高線量汚染物の取扱い
◦ 遮蔽、距離、時間の線量低減対策を実施
◦ 線量表示を行う
◦ 運搬、移動は往来の少ない時間に行う
▶ 物品の搬出、搬入
◦ 汚染のおそれのある場所で使用する物品はあらかじめ養生する
◦ 物品を作業場所の外に搬出する場合は、汚染サーベイを実施
▶ 片付け作業
◦ 養生シート等を片付ける場合は、汚染面を内側に巻き込む
◦ 高汚染物を扱った場合は、汚染の飛散防止のため、濡れウエス等で拭いてしめった状態で解体
◦ 使用機材、工具等は汚染スクリーニングを行い、除染等の措置を実施
◦その他
・廃棄物は、所定の場所に運搬し保管する
・除染の際は、細かい部品の拭き忘れに注意
(7)健康診断の実施
▶ 電離放射線特殊健康診断
◦ 除染作業に常時従事する者に対して、6カ月に1度実施
◦ 検診項目は電離放射線障害防止規則第56条に規定
▶ 一般健康診断
◦ 常時雇用する労働者に対して、1年に1回実施
◦ 検診項目は、労働安全衛生規則第44に規定
4 安全衛生管理体制
▶ 安全衛生推進者または衛生推進者の選任
◦ 労働者数10人以上50人未満の事業場では、安全衛生推進者を選任し、以下の業務を実施させる
・危険防止の対策の実施
・安全衛生教育の実施
・健康診断の実施
・健康診断結果に基づく就業上の措置の実施 など
▶ 作業指揮者の選任
◦ 除染作業を安全に実施するため、十分な知識と経験を持った者を作業指揮者として選任し、作業の指揮監督を行わせる
5 安全衛生教育
▶ 雇い入れ時・作業変更時の教育
◦ 労働者を新たに雇い入れた場合、又は新たに除染作業に就かせる場合は、以下の項目の教育を実施する
① 放射性物質又はこれらによって汚染されたものに関する知識
② 除染の作業方法に関する知識
③ 除染で使用する機器、器具等の構造及び取扱方法に関する知識
④ 電離放射線の生体に与える影響
⑤ 関係法令の知識
⑥ 除染の作業の方法及び使用する機器、器具の取扱
6 自主的な安全衛生活動
▶ ヒヤリ・ハット活動
◦ 作業中にヒヤリとした、ハッとしたが、幸い事故にはならなかたという事例を報告・提案する制度を設け、災害場発生する前に対策を実施
◦ ヒヤリ・ハットの事例
・ヒヤリ・ハットの状況
・屋根に上ろうとしたときに、はしごが倒れそうになった
・対策
・はしごに上る前に、はしごを固定するか、人に支えてもらう
▶ 危険予知活動(KY活動)
◦ 危険予知活動は、作業前に現場や作業に潜む危険要因とそれにより発生を高めて災害を防止する活動
◦ イラストシートなどを用いて行う方法がある
・作業の方法
・脚立を使って、雨樋の汚泥を取り除こうかとしている
・どのような危険が潜んでいるでしょうか?
・脚立から離れた雨樋から汚泥をとろうとして、脚立がぐらついて落下
・脚立から降りる際に、地面においてあるバケツに足をかけて転ぶ
7 リスクアセスメントに基づく取組
▶ リスクアセスメントとは
◦ 作業に伴う危険性または有害性を見つけ出し、これを除去、低減するための手法
▶ リスクとは
◦ 負傷又は疾病の「重篤度」と「発生の可能性」を組み合わせたもの
▶ リスクアセスメントの手順
① 作業における危険性又は有害性の特定
② 特定した全ての危険性又は有害性について、リスクの見積り
③ 身積りに基づき、リスクを低減するための優先度の設定
④ リスク低減措置の検討及び実施記録